2018年11月22日木曜日

「刺身そっくり」欧州で大人気のベジタリアン向け食材の正体

世界で急増しているベジタリアン、ヴィーガンといった菜食主義者。彼らは和食が好きなのだが、オランダで開発されて話題になっているのがタピオカでんぷんと海藻グルコースからつくられた、サシミの”そっくりさん”だ。

ベジタリアン・ヴィーガンは
和食が好きという事実

でんぷんなど植物性原料から作られた刺身そっくりな食材
でんぷんなど植物性原料で再現された“刺身もどき”が欧州で話題になっている。磯の風味や、噛むうちに溶けるような食感などもよく再現されている(ヴィーガン・シースター「ノーサーモン・サシミ」公式YouTubeチャンネルより)

 2020年のオリンピックイヤーを待つまでもなく、インバウンド消費が賑わう日本。特に外食産業は今後も急成長が見込まれているが、そこにはいくつもの課題がある。たとえば、外国語対応やマナーの問題はもちろん、イスラム系観光客へのハラル対応なども必要とされている。

 
 ハラルの他に、菜食主義(ベジタリアン・ヴィーガン)も無視できない。動物愛護のため、環境問題への危惧、さらには健康のためまで、さまざまな理由から、菜食主義に転向する人が急増している。肉や魚を食べないベジタリアンや、さらに厳しく「動物からの搾取に貢献しない」という信念のために卵や動物の乳も口にしないヴィーガンは現在、世界で計4億人に迫るとされる。これはイスラム教人口の4分の1にあたる数字で、ANAやJALなどの日系の航空会社は数年前から、機内食に各段階のベジタリアン・ヴィーガンミールを用意している。

 特にそのトレンドをリードするのは、イタリア、イギリス、ドイツなど。これらの国々では、人口のおよそ10%前後が完全菜食主義者だが、そういった欧州のヴィーガンにとって身近な料理は、実は和食である。

 スーパーのベジタリアン用食材売り場には確実に豆腐やしょうゆ、海苔やわさびといった日本の食材が並んでいるし、イギリス発の和食チェーン「ワガママ」も「ワサビ」も、ベジタリアン・ヴィーガン用メニューを豊富に用意している。「和食」と「菜食主義」は、ヨーロッパでは大きくリンクしているのだ。

 そんな中、オランダで、タピオカでんぷんと海藻グルコースをベースにした完全植物性の「サシミ」のブランド「ヴィーガン・シースター」が始動し話題となっている。手がけたのはアムステルダムのベジタリアンレストラン「ヴィーガン・ジャンクフード・バー」。ヴィーガン用食品の販売やプロデュースを手広く扱う大手「ヴィーガンXL」とのコラボにより、マグロとサーモンの2種類の「サシミ」を開発した。現在は同店での提供のみとなっているが、来年には大手スーパーマーケットチェーン「ユンボ」の全店舗でパッケージ販売もされる予定だ。

代替品でサシミそっくり!
開発者に直撃取材

 開発の経緯や味はいかに。広報担当者のエリサ・ブロンガーズ氏に話を聞いた後、実際に食べてみた。

――開発のきっかけは?

 ベジタリアン用の肉の代替品は種類も質も目覚ましい進化を遂げているのに、シーフードの代替品がほとんどないことに気づいたことです。海の生き物も陸の動物と同じように脅かされています。特にマグロや鮭は近年世界中で「取り合い」状態になっており、絶滅も非現実な話ではありません。生態系が崩れて海が死ねば、私たちにも深刻なダメージが及ぶでしょう。

――消費者からの反応は?

 非常に好評を得ています。食べた人のほとんどが「本物の刺身とそっくり」と驚きます。見た目、食感、風味、そしてブランド力がセールスポイントです。カロリーも低く、本物の魚と違ってプラスチックや化学物質による海洋汚染の影響を受けていません。

――日本での販売の可能性は?

 もちろん、興味を持ってくれるレストランや販売業者がいれば、ぜひ日本の皆さんにも食べてもらえるようにしたいです。

――今後の展望は?

 現在進行中のプロジェクトがありますが、まだお話しできません。一つ言えるのは、「植物ベースでこんな食品が作れるのか!」と世界が驚くだろうということ。私たちの最終目標は、消費者の食習慣に変革を起こすことです。

「本物の刺身そっくり」は本当か
日本人が食べてみたら…?

 担当者の話を聞いて、「食卓からマグロが消える!?」というレベルでしか乱獲の末路をイメージしていなかったことを恥じつつ、その自信満々さに好奇心を押さえられなくなった筆者は一路アムステルダムへ。町の中心地にそびえたつ国民的ビール「ハイネケン」の醸造所のすぐ裏手にあるファンキーなカフェレストランは、店内もテラスも満席だった。

カフェで提供される二種盛り合わせ(筆者撮影)

 さっそく「ノー・サーモン/ノー・ツナ サシミ」をオーダー。1皿12ユーロは、こちらの相場では本物の刺身の盛り合わせより割安だが、味は日本人の筆者からすると、さすがに「本物の刺身と区別がつかない」とまではいかない。

 でんぷんがベースになっていることで、本物の刺身よりは若干こんにゃくのような、なめらかでシコシコした食感がある。しかし磯の風味も、刺身特有の噛むうちに溶けるような食感も、若干の筋っぽさも、よく再現されていると感心した。

「ノー・サーモン」と「ノー・ツナ」の味の違いはあまり感じなかったが、どちらも白ワインと合わせて食べても口の中で生臭さがあおられるような感じがなく、外国人にも食べやすそうという印象を受けた。

菜食主義者に評判の悪い
日本レストランの対応

 同行したオランダ人のヴィーガンに感想を求めると、「元々サシミは好きじゃないが」という前置きつきで、「やっぱり旅行したらその国のものを食べたいが、動物を食べるのは論外。日本に行った時、主義を曲げることなく日本で『サシミ』を食べられる選択肢があったら嬉しいと思う」とのことだった。

店の常連も注文していた(筆者撮影)

 実は日本はグルメ天国としての評判を固める一方、ベジタリアンに対する理解に関しては外国人観光客の間ですこぶる評判が悪い。ベジタリアンであることを説明したのにサラダにカリカリベーコンが入っていた、フライドポテトが牛脂で揚げてあった、さんざんそばを食べた後につゆに鰹節を使用していることを知った、など、不満を感じる人が非常に多い。

 精進料理の歴史もあり、ポテンシャルは無限であるのに、単なる理解不足がイメージや売り上げの低下を招いているのはもったいない気もする。

 菜食主義は単なる欧米のヒップなブームではない。現在訪日観光客の20%近くを占める台湾も人口の12%、インドに至っては38%がベジタリアンだ。「菜食主義対応の日本のレストラン」のニーズは確実にある。

 今回紹介した「サシミ」も、菜食主義の観光客のため、魚アレルギーやダイエット中の人にも心置きなく食べられる「刺身」として、そしてなにより本当に「海からマグロがいなくなる」未来に歯止めをかけるため、などさまざまなニーズが浮かぶが、まずはブロンガーズ氏の言葉を借りて「植物ベースでこんな食べ物が作れるのか!」というインパクトに期待したい。和食に新たなチャプターを加える起爆剤になってくれるかもしれない。

(ステレンフェルト幸子/5時から作家塾(R))

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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