2017年10月31日火曜日

コラム:スプリント・Tモバイル合併、恩恵なしと市場が証明

[ニューヨーク 30日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 米独占禁止当局の洞察力の正しさが、市場によって証明されている。当局は、携帯電話大手スプリント(S.N)とTモバイルUS(TMUS.O)の合併が果たして消費者のためになるのかずっと疑念を表明してきた。その両社の合併協議行き詰まりが報じられると、両社より大手のライバルであるベライゾン・コミュニケーションズ(VZ.N)とAT&T(T.N)の株価が打撃を受けた。つまり、携帯電話業界の再編統合が進めば、消費者を犠牲にする形で業界すべての利益が上向くと投資家が想定していたことになる。

10月30日、米独占禁止当局の洞察力の正しさが、市場によって証明されている。写真は9月撮影(2017年 ロイター/Dado Ruvic)

携帯電話事業は資本集約型で、リターンは規模に連動する傾向がある。ソフトバンク(9984.T)傘下のスプリントは大手では最も小さく、投資を惜しんでいる。このやり方は恐らく長期的には持たないだろう。なぜなら顧客は、質の低いネットワークだとみなせば最終的に逃げ出すからだ。

規模の恩恵という面で、スプリントとTモバイルが合併すれば膨大な財務上のメリットも得られる。モフェットネーサンソンの調査によると、予想される経費節減効果の現在価値は300億ドルになるかもしれないという。合併支持派は、財務基盤が強い企業は投資を拡大し、顧客に愛され、ライバルが恐れるようなネットワークを構築できると主張する。

しかし統合後の新会社は、節減効果を投資に回さず単に懐にしまうこともあり得る。市場のプレーヤーが減って競争が弱まれば、サービスでしのぎをけずろうとする切迫感は薄れる。積極的な値引きが打ち切られてもおかしくない。Tモバイルは料金引き下げ競争を仕掛け、今も顧客取り込みに熱心だ。スプリントは他社からの乗り換えには1年間のサービス無料提供に動いている。こうした状況について、米連邦通信委員会(FCC)は、2009年以降で初めて携帯電話市場に「有効な競争」が生まれたと評価した。

FCCが、せっかくのこの競争状態を危うくする案件に賛成すれば、おかしな話になる。市場がベライゾンとAT&Tの時価総額を70億ドル強も目減りさせて発信しているメッセージも、そういうことだ。ベライゾンとAT&Tの投資家は、業界再編でより恐るべきライバルが誕生することは心配していない。不安を抱いているのは、合併がご破算となり、価格競争が続いていく事態なのだ。

●背景となるニュース

*ソフトバンクは、スプリントとTモバイルUSの合併に向けた協議を中止する、とニッケイ・エイジアン・レビューが30日伝えた。さなざまな条件で合意したものの、新会社の持ち分で折り合うのが難しくなったという。

*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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