犯罪被害者支援の一環として、殺人など凶悪事件の現場となった自宅など住環境を元通りにするため、ハウスクリーニングを行う費用を、公費から支出する動きが全国の警察で広がっている。被害者にとっては、忌まわしい記憶を呼び起こされるのと同時に、人生の思い出が詰まった場所でもある。ただ現状の公的支援は要件が厳格で、十分に活用されるには至っておらず、まだ課題は残る。
血だらけの室内…「配慮はないのか」
「部屋の中はすさまじいことになっていた」。殺人事件で弟を亡くした川上雅也さん(48)は事件後の室内の様子を、そう振り返った。
平成28年10月19日未明、大阪府門真市の大工、川上幸伸さん=当時(43)=方に短刀を持った男が押し入り、2階で就寝中だった幸伸さんを計30カ所刺して殺害した。幸伸さんの子供3人も男に切りつけられて負傷した。元定時制高校生の小林裕真被告(25)が現行犯逮捕され、殺人などの罪で起訴された。一家は小林被告と面識がなく、いまだに動機は不明だ。
大阪府警による現場検証終了後、雅也さんが室内に入ると、室内の壁や2階の廊下はまだ血だらけだった。証拠保全の意味合いもあるだろうが「被害者への配慮はないのか」と思った。
幸伸さんの家族は一時、雅也さんの自宅へ身を寄せた。「弟の子供たちが、事件の記憶が残る自宅に今後も住み続けるのか」と気がかりだったという雅也さん。だが子供たちは「パパのためにも住みたい」と、事件現場となった自宅に戻ることを望んだ。知人らが室内を清掃し、事件から1カ月半が過ぎたころ、子供たちは自宅へ戻った。
大阪府警がハウスクリーニングの公費負担を検討する中で、この事件は起きた。凄惨(せいさん)な室内を目の当たりにした雅也さんは「こんなつらい思いをするのは、私で最後にしてもらいたい」と話す。
幸伸さんの長女(20)は「この家には家族の楽しい思い出が詰まっている。今でもパパが帰ってくるのを待っている自分がいる」と涙ぐんだ。次女(19)も「パパが頑張って建ててくれた家。ここを出たら、パパを置いていくような気がしてしまう」と話した。
制度導入も要件厳しく運用に課題
自宅が現場となった犯罪被害者に対し、ハウスクリーニング費を負担する制度は平成29年度当初時点で41都道府県警が導入済みだ。
大阪府警を例に取ると、支出の対象としている事件は殺人▽強盗強制性交致死▽傷害致死−などの凶悪犯罪。被害者家族に今後も住み続ける意思があれば、血痕や異臭の除去費などを公費で負担する。
担当する府警府民応接センターによると1件あたりの上限は20万2500円。29年度から運用を開始したが、同年11月現在で利用例はまだ1件もない。
同センターは「制度を利用しなければいけない事件が、ないに越したことはない」とするが、支出対象は限定的だ。まず親族間の事件や被害者に落ち度が認められるようなケースは除外される。さらに現場が大阪府内の所有物件であることが要件になっており、借家での被害も支援の枠組みからは漏れてしまう。
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