日産自動車のカルロス・ゴーン会長が19日、報酬約50億円を有価証券報告書に過少申告した疑いで逮捕された。日産の海外子会社に購入させた高級住宅を無償で利用した疑いもあるという。ゴーン会長は日産の経営だけでなく、仏ルノーや三菱自動車との3社連合の要として成長を主導してきた。大物経営者の突然の逮捕は3社連合の屋台骨を揺るがす。
「(ゴーン会長が)当社の資金を私的に支出していた」。ゴーン会長が逮捕された19日夜、日産は声明を発表し、私的流用の可能性を示唆した。巨額報酬への批判もあった陰で、さらに多くの報酬を得て金融商品取引法に基づき適切に開示していなかったことになる。
金商法が適切な決算情報の開示を企業に求めるのは、投資家に正しい判断材料を提供し、市場の公正さを守るためだ。過去に有価証券報告書の虚偽記載容疑で摘発されたのは売上高や利益などを偽った粉飾決算が多く、報酬の過少申告に同法違反容疑が適用されるのは極めて異例だ。
今回の捜査は日産側からの被害相談が端緒になっている。西川広人社長は記者会見で「コメントできない立場にある」として明言を避けたが、日本版司法取引の対象になった可能性があり、法人としての日産の処罰の行方も焦点となる。
同社の社内調査ではゴーン会長が海外子会社に自宅として海外の高級住宅を購入させていたことが判明。その他にも複数の会社資金の私的流用が見つかったという。
事件の本質はゴーン会長による私的流用にあるといえ、通常は会社法の特別背任や刑法の業務上横領容疑の適用が検討される。ただ、海外子会社を使った取引は金額の確定などが難しい。特に「会社に意図して損害を与えたこと」が構成要件となる特別背任容疑は、損害額を明らかにする必要があり、立証のハードルは非常に高い。
東京地検特捜部は私的に流用された資金を「本来は有価証券報告書に記載すべき報酬」と捉えることで有価証券報告書の虚偽記載容疑の適用が可能になると判断した。
会社法や金商法に詳しい早稲田大学の上村達男教授は「金融商品取引法の虚偽記載という『形式犯』をきっかけに企業のガバナンスが正されるのであれば、捜査機関として正しい動きだ」と今回の摘発を評価する。
元検事の早川真崇弁護士は「虚偽記載額の大きさに加え日産の業績をV字回復させたゴーン会長の影響力などを重視したのだろう。投資家や証券市場の信頼を大きく損ねた点で処罰価値が高い」と強調する。
業績の低迷に苦しんでいた日産の再建をけん引したゴーン会長。その「側近中の側近」として知られるのが、19日に逮捕されたグレッグ・ケリー容疑者だ。
米大手弁護士事務所出身の弁護士で、1988年に日産の米国法人に入社。2008年に日産自動車執行役員を経て12年から代表取締役を務める。最高経営責任者(CEO)オフィスを取り仕切り、幹部人事や報酬などを決定する際に大きな影響力を持っていたとされる。
ゴーン会長の私的流用には、オランダにある日産の子会社が使われたとされる。10年に資本金を全額日産が負担して設立した。ケリー役員が設立時から関わっていたという。
特捜部は私的流用された資金の流れの解明を進めるとみられる。早川弁護士は「関係先が海外にある場合、関係者の聴取や資金の流れの把握が難しいケースも想定される」と話している。
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