2018年5月27日日曜日

正式廃止から1年、西武安比奈線はいま 半世紀前の遺構「撤去」始まる

正式な廃止から1年が経過した西武安比奈線では、遺構の「撤去」が始まっています。線路沿いを歩いて取材しました。

半世紀にわたって残された幻の鉄路

埼玉県川越市に、「幻の鉄路」とも言われる鉄道路線があったのをご存じでしょうか。

それは、西武安比奈(あひな)線。西武新宿線の南大塚駅と、入間川の右岸河川敷にあった安比奈駅を結んでいた全長3.2kmの貨物線です。1925(大正14)年2月に入間川の川砂利輸送を目的に開業。その後、川砂利採取の規制強化などにより、1963(昭和38)年に運行を休止しました。

その後、安比奈線は廃止ではなく休止線として存続。バブル期の1987(昭和62)年には、増加する西武新宿線の旅客輸送に対応するため、安比奈駅付近に車両基地を建設し、安比奈線を復活させる計画が発表されました。

しかし結局、その計画もバブル崩壊などによって無期限に延期され、2016年、中止が決定されます。そして2017年5月、安比奈線自体も正式に廃止されました。全線にわたってレールや架線柱が残され、首都圏の貴重な鉄道遺構として愛好家に親しまれてきた安比奈線ですが、同年末には施設の撤去開始が報じられました。

正式廃止から1年、安比奈線の現状を取材しました。

架線柱は完全に消滅するもレールは健在

安比奈線の起点は、南大塚駅。下りホーム脇の、コンクリート枕木が積まれたスペースが、安比奈線の起点です。2017年までは、ここに安比奈線の起点を示す0キロポストがありましたが、いまは撤去されました。

枕木置き場の先から廃線跡が始まります。架線柱は撤去されたものの、レールは幸いそのまま。報じられた「設備の撤去」は、現時点では倒壊の危険がある架線柱などに留まっているようです。

300mほど先で、安比奈線は国道16号を渡ります。1980年代までは車道にもレールが残っていましたが、現在は歩道で途切れています。

国道16号を越えると、住宅地に入ります。踏切跡から線路跡を眺めていると、地元の住民らしき人が線路跡を歩いていました。沿線は狭い道が入り組んでいるため、特に入間川街道と国道16号を結ぶ近道として、線路跡を歩く人がいるのです。厳密には不法侵入であり、全国の廃線跡に共通する問題です。

線路跡を歩いてみたいという誘惑をぐっとこらえ、市道に回って先へ進みます。南大塚駅から1kmほどで、軌道跡は住宅街を抜け田園地帯に出ました。この辺りは、入間川の流れが生んだ沖積平野です。立派な築堤が田畑の真ん中をまっすぐ北西に延び、葛川橋梁(きょうりょう)と呼ばれる立派なガーダー橋も残っています。

伐採作業が行われる「池辺の森」

いまにも列車が走って来そうな踏切跡をいくつかたどると、小さな森が現れました。廃線跡の写真集などによく登場する、通称「池辺の森」です。いまの時季は、小鳥がさえずり、まさに童話の世界。森のなかは立入禁止ですが、西側になかをのぞける場所があります。

ところが、その森で伐採作業が行われていました。作業員に尋ねると、「そのうち他の場所もやるらしい」との答え。森全体を伐採するのかはわからないそうですが、池辺の森も、とうとう失われてしまうのでしょうか。

森を抜けると、車道を隔てて池辺用水橋梁が現れます。ここは、2009(平成21)年に放送されたNHK連続テレビ小説『つばさ』のロケ地になった所で、放送当時には線路敷が散策路として公開されました。いまは立入禁止ですが、橋梁にはそのときの手すりが残っています。

池辺用水を渡った線路跡は、入間川右岸の河川敷へ。県道114号をくぐった所からは線路跡が道として使われており、立入禁止の囲いがある場所以外は歩くことができます。ケヤキが根を張り、線路を持ち上げていました。ケヤキの根は、線路側のみ地表に露出しており、ケヤキとレールが長年戦い続けてきたことを物語っています。

安比奈駅跡、今後の活用法は未定

前方に、水道橋のアーチが見えてきました。雑草のなかに分岐器(ポイント)が現れ、ここからが安比奈駅跡のようです。南側に見える工場は、砂利や砂を生産する西武建材安比奈工場。西武鉄道の車両基地は、この工場周辺に建設が計画されていました。地図を見ると、車両基地の予定地に沿って周回道路が整備されており、その規模を伺うことができます。

水道橋の向こうは、オフロードカーのコースになっています。2017年まで多数残っていた架線柱はすべて撤去されましたが、コンクリート構造物や一部のレールが現存。安比奈駅終端部近くには、貨車のピットも原型を留めていました。

運行休止から55年を経た西武安比奈線。西武鉄道は、線路跡の活用については川越市などと協議して決めるとしており、川越市議会でもたびたび議題に取り上げられています。土地が市に譲渡されるかどうかもまだ決まっていませんが、市側は一部が遊歩道となった東武熊谷線などの事例などを先進事例として挙げています。

戦前から戦後にかけて、各地に見られた川砂利採取用の貨物線。そのほとんどが完全に姿を消しており、原型を留める西武安比奈線跡は貴重な遺構です。一部にレールを残した遊歩道を整備するなど、その歴史を語り継いでほしいと思います。

写真集などにも頻繁に登場する通称「池辺の森」。鳥や虫などさまざまな生き物が生息している(2018年4月、栗原 景撮影)。

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Read Again http://news.nicovideo.jp/watch/nw3548048

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