トランプ米政権が自動車に追加関税を課す検討に入ったことに対し、日本の政府や自動車業界に動揺が広がった。米国側は2国間交渉に持ち込み日本から有利な条件を引き出すことに加え、11月の中間選挙をにらみ自動車業界からの支持を集める狙いがある。実現すれば多国間での貿易を軸としてきた日本の通商戦略の根幹が揺らぎ、日本車メーカーへの影響も大きい。
「多角的貿易体制を崩すことにつながりかねない」。24日午前、世耕弘成経済産業相は米国の措置を批判した。自動車は米国の対日貿易赤字の6割を占める。大きな輸出先であるだけに反応も早かった。
日本の思惑とは別に、米国は2国間交渉に突き進む。韓国とは米国に有利な形で自由貿易協定(FTA)の再交渉を妥結。北米自由貿易協定(NAFTA)交渉は大詰めを迎え、米国は日本や欧州とも「貿易戦争」を仕掛けてきた。2国間交渉を有利に進める手段が自動車関税の引き上げだ。
実現すれば日本車メーカーの経営への打撃は大きい。
日米貿易摩擦を経験した日本車各社は、米国で現地生産や雇用を増やしてきた。ただ市場が成熟した日本で国内工場の稼働率維持や技術基盤を残すために、高級車など生産は日本に残し、米国に輸出している。
2017年の四輪車の対米輸出は174万台で、輸出全体の37%を占め地域別で最も多い。国内生産の18%を占める。トヨタ自動車は高級車「レクサス」など年70万台規模を対米輸出する。
米国は日本車メーカーにとって稼ぎ頭の市場だ。18年3月期の世界販売台数に占める比率はトヨタ(単体ベース)が26%、日産が28%、ホンダは32%を占める。仮に高関税が発動されれば、米国販売を維持するために米国内での現地生産を増やす決断を迫られる。
「適切な対応をして、しっかり注視をしていきたい」。マツダの小飼雅道社長は24日の新車発表会で記者団にこう語った。同社は米国で販売する車を米国外からすべて輸入している。21年には米国に新工場を稼働する計画だが、メキシコにも工場がありトランプ大統領の貿易政策に神経をとがらせている。
24日の東京株式市場では自動車株が総崩れとなった。トヨタ自動車は前日比3%安、日産自動車が2%安、ホンダが3%安と下げた。中でも売りが膨らんだのがマツダで、取引時間中に6%安まで下げた。「北米自由貿易協定(NAFTA)の議論も不透明で米国の関税が引き上げられると最も影響は大きい」(東海東京調査センターの杉浦誠司氏)
韓国の自動車業界にも緊張が走った。17年に韓国から輸出された約253万台のうち、米国は約84万5千台と3割強を占める最大の輸出先だ。韓国政府と韓国自動車産業協会は24日、状況分析と今後の対応を協議する緊急会合を開いた。
欧州勢にも影響が及ぶ。独ダイムラーの「メルセデス・ベンツ」や独BMWなどの高級車セダンは米国でも人気で、ドイツ勢の輸出額では米国向けが最も大きい。
仮に関税が適用されても、自動車工場の新設には1000億円規模の投資と2~4年程度の期間が必要で即座に対応するのは難しい。米国工場増強や他地域からの生産移管にも多額のコストと期間がかかる。
高関税の実現性を疑問視する見方も多い。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の杉本浩一シニアアナリストは「自国生産を取り戻したいという動機なのだと思うが、実現性は低い。自動車メーカーも強く反論するだろうし、簡単に認められるような内容であるはずはない」と指摘する。
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