[東京 23日 ロイター] - 黒田東彦日銀総裁は23日の会見で、現行の金融緩和を粘り強く続けていくことを何度も強調し、市場にくすぶる正常化観測をけん制した。物価2%の実現を目指して緩和効果の強まりを待つ姿勢だが、金融政策への思惑による円高・株安など市場変動が冷や水になることへの警戒感もにじむ。
ただ、世界的な好景気を背景に日本の金融政策に対する正常化観測が浮上しやすく、市場との対話に一段と神経を使う局面が続きそうだ。
マーケットに金融政策の正常化観測が強まったのは、9日に実施した超長期ゾーン(残存期間10年超)の国債買い入れオペの減額がきっかけ。黒田総裁はオペについて「国債の需給環境や市場動向を踏まえて、実務的に決定されるもの」とし、「その時々の金額やタイミングが、先行きの政策スタンスを示すことはない」と、日々のオペに政策的な意図はないとあらためて表明した。
会合後に公表した新たな「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」では、経済成長率と消費者物価の見通しを昨年10月の前回の同リポートから据え置いたものの、予想物価上昇率の判断をこれまでの「弱含み」から「横ばい圏内」に引き上げ、外為市場が円高で反応する局面もみられた。
これに対しても黒田総裁は「予想物価が上がったから、直ちにイールドカーブ・コントロール(YCC)を調整する必要があるとは全く考えていない」と、早期の金利調整を明確に否定。
その後も物価2%目標には依然として距離があることを説明し「金融緩和を粘り強く続けていく」と繰り返した。
それでも世界的な好景気が続く中で、黒田総裁が「予想物価が上がると、自然利子率が一定であっても景気刺激効果が強まってくる」と発言したように、市場では今後も「予想物価上昇率が上昇してくれば出口の思惑が強まり、円高に進む可能性がある」(あおぞら銀行・市場商品部部長の諸我晃氏)との見方は根強い。
国債買い入れ減額をめぐっては、比較的冷静に受けとめた債券市場に対し、外為市場で意図せざる円高が進行するなど、YCC政策に対する市場間の「温度差」も浮き彫りになった。
これまでの大規模な国債買い入れで、日銀の保有残高は国債発行の4割超を占める。利上げ観測を抑制できても「ストック効果」の強まりによって、イールドカーブには引き続き低下圧力かかりやすい。
このため、BOJウオッチャーの中には、円高回避のために国債買い入れの柔軟性が失われれば、イールドカーブの形状が歪み、YCC政策の持続性に疑念が生じる可能性も否定できないとの声も出ている。
足元の外為市場では、欧州中銀(ECB)の緩和縮小観測によるユーロ高もあり、米金利上昇にもかかわらず、対ドルでの円安が進みづらい複雑な状況にある。
米欧中銀が金融政策の正常化に向けて歩を進める中、海外勢を中心に日銀の次の一手に注目が集まりやすい環境にあり、日銀は「より丁寧な」市場との対話に神経を使う局面を迎えたようだ。
伊藤純夫 編集:田巻一彦
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