【ロンドン=黄田和宏】欧州発の電気自動車(EV)シフトが加速している。英政府は26日、2040年までにガソリン車やディーゼル車の販売を全面的に禁止すると発表した。世界の石油消費の7割弱は自動車など輸送用が占めるが、環境対策として「脱石油」が世界的な潮流になりつつある。自動車メーカーの戦略や需要が伸びる電力の確保に向けたエネルギー政策は対応を迫られる。
英国のゴーブ環境相は26日、英BBCで「新車販売の禁止により(10年間で)ディーゼル車とガソリン車を全廃する」と語った。26日発表した措置は、排ガスによる都市部での深刻な大気汚染問題や地球温暖化に対応するのが狙い。EVの普及を促すことで、国内での関連技術の開発を後押しする。
地方自治体による排ガス抑制策を支援するため、2億5500万ポンド(約370億円)の予算を用意し大気汚染対策に計約30億ポンドを投じる。汚染が深刻な地域では、規定を満たさない車両の乗り入れ禁止や通行に課金するなどの措置も導入する。
欧州では燃費に優れるディーゼル車の利用が多いが、最近は車から排出される窒素酸化物(NOx)により大気汚染の問題が深刻になっている。独自動車大手フォルクスワーゲン(VW)による排ガス不正問題の発覚などにより、ディーゼル車の性能に対する不信の高まりも全面禁止の動きを後押ししている。
環境意識の高い欧州では、オランダやノルウェーで25年以降のディーゼル車やガソリン車の販売禁止を検討する動きもある。自動車大国のドイツでも昨秋に30年までにガソリン車などの販売を禁止する決議が国会で採択された。法制化には至っていないが、「脱燃料車」の機運が高まっている。
うねりはアジアにも及んでいる。インド政府は今年4月「30年までに販売する車をすべてEVにする」との目標を表明し、中国でも類似の政策が打ち出されている。一気にEVにシフトして自国の有力産業に育成しようとの思惑も働いている。
日本政府も30年までに新車販売に占めるEVやプラグインハイブリッド(PHV)などの割合を5~7割にする目標を掲げる。ただ従来型の燃料車向けの部品など多くの関連メーカーがあるだけに、大胆な政策変更をしにくい面もある。
国際エネルギー機関(IEA)によると、16年のEVなどの新車販売は75万台超。累計では200万台を超えた。20年には最大2千万台、25年には同7千万台と予測する。
EVの普及はガソリン需要を押し下げる。経済産業省が6月に公表したエネルギー白書によれば、世界の石油消費の内訳は自動車など輸送用が14年時点で65%を占めた。格付け会社フィッチ・レーティングスは欧州の新車販売割合でEVが10年以上5割を保つと、ガソリン需要が4分の1減ると分析する。
逆に電力需要は伸びる。例えば日本では、すべての乗用車がEVに替わると消費電力量は単純計算で1割増えるとの試算もある。EVシフトを進めるには電力の供給量確保がカギになる。
英国は環境に配慮して風力などの再生可能エネルギーの比率を2割強に高め、石炭への依存を減らしているが、電力供給は現状でも綱渡りだ。原子力発電所の老朽化により、新規の原発を予定通り建設できなければ、20年代にも電力不足に陥るおそれがある。
欧州を中心に再生エネルギーは発電コストが低下しているが、原発は福島第1原発事故をきっかけに世界的にも推進が容易ではなくなっている。EVシフトを進めるには、温暖化や大気汚染の対策と両立させながら電力需要拡大に対応するエネルギー政策が求められる。
Read Again http://www.nikkei.com/article/DGXLASDC26H3R_W7A720C1EA2000/
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