2018年2月12日月曜日

【社説で経済を読む】仮想通貨の可能性までつぶすな

 □産経新聞客員論説委員・五十嵐徹

 仮想通貨取引所大手「コインチェック」から、巨額資金が一瞬に流出した事件は、あらためて仮想通貨への疑念と不信をかき立てる結果になっている。

 流出したのは、ビットコインとともに人気が急上昇していた「NEM(ネム)」。同社によると1月26日未明、26万人分時価580億円相当が不正アクセスにより盗み出された。昼近くまで異常に気付かなかったというから管理のずさんさにはあきれる。

 原因は、もっぱら同社の甘いセキュリティー対策にある。NEMはインターネットから遮断して保管する基本的対策すらとられていなかった。複数の秘密鍵も導入していなかった。

 各紙社説が、「顧客の資産を扱うのに値する会社なのか」(産経1月30日付主張)、「利用者保護を置き去りにした、無責任な経営姿勢が目に余る」(読売同日付社説)などと一様に批判を加えたのは当然だった。

 コインチェック社は、流出分は自己資本を取り崩して返すとしているが、具体的な時期はいまだに明らかにしていない。

 仮想通貨の取引は世界的に急増し、とりわけ日本は最大の市場という。その分、ハッカーらに狙われやすいわけだが、やすやすと大型の不正を許す事態はやはり異常だ。2014年には、別の日本の取引所で「ビットコイン」約470億円分が消失する事件があった。今回はそれを上回る世界最悪の被害という。

 毎日30日付社説は、「政府が新技術の成長性を有望視し、世界に先駆けて取引所の登録制を導入したことも、仮想通貨市場の成長を後押しした」と解説。「その半面、登録前でも、猶予期間中や審査中の営業活動を容認した。業界に優しい対応が結果的に甘い安全対策を放置することになった」と取り組み姿勢の甘さも指摘した。

 政府は昨年4月に改正資金決済法を施行し、世界で初めて取引所に登録制を導入したが、コインチェック社など一部には「仮免許」状態での営業も認めていた。金融庁が業務改善命令の結果を待たず、立ち入り検査という強制措置に踏み切ったのも、規制当局としてのうろたえぶりを物語る。

 ◆利便性より投機に

 だが、「それでも仮想通貨とその技術が期待されるのは、ネットで取引される利便性の高さや手数料の安さなどのメリットがあるからだ」(産経1月30日付主張)。円やドルなどのリアルマネーと仮想通貨の決定的な違いは、管理を銀行などの組織ではなく、コンピューターネットワークという巨大なシステムに委ねていることだ。

 取引の詳細情報はすべて、ネットワーク上に分散して保存され、人間が管理していないため、資金のやり取りにはほとんどコストがかからない。海外への少額送金も極めて安い手数料ですむ。事業への出資を募るクラウドファンディングや組織に頼らない人道的な寄付集めも世界レベルで展開できる。

 国境を越えたネットショッピングはもちろん、日常の買い物など生活全般で仮想通貨が普及していく可能性は十分にある。

 米国では、コーヒーチェーンのスターバックスがビットコインに対応して話題になった。日本でも飲食店中心に利用を認めるところが出始めている。

 とはいえ、まだまだ話題作りの段階で、仮想通貨をめぐっては、当初期待された決済手段としてよりも、投機対象として注目されているのが実情だ。

 仮想通貨は、世界で1500種類以上あり、時価総額は50兆円規模ともいう。中には昨年1年で数百倍にも価値が跳ね上がった通貨もある。

 取引所との口座(ウォレット)開設で身元確認を義務付けていない国も多く、匿名性が高い。そのことは利用者にメリットでも、マネーロンダリングやテロ資金に悪用される懸念が絶えずつきまとう。

 韓国では昨年、北朝鮮によるとみられるサイバー攻撃で92億円相当の仮想通貨が盗まれる被害があった。今回の事件も北の犯行だとする説がある。

 ネット上の取引だけに、国境の壁は事実上ない。一部の国で規制を強めても、どこまで実効性があるかは疑わしい。国際的な規制の在り方が議論され始めたのもこのためだ。

 ◆必要なバランス感覚

 3月にアルゼンチンで開かれる20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議でも、規制について議論される見通しだ。仏独が仮想通貨の世界的な規制案を提案するという。

 仮想通貨については、「予期しない悪影響や副作用も予想される。そうした問題への対処は技術の進展のためにも不可欠」(朝日1月31日付社説)だし、「取引の安全さえ確保できないようでは、いつまでたっても市民権を得られない」(日経30日付社説)のもその通りだ。

 だが、角を矯めて牛を殺す結果になっては元も子もない。

 相次ぐ仮想通貨の流出を受けて麻生太郎財務・金融相は、取引所の規制強化を進める考えを示したが、同時に、「イノベーションの促進と利用者保護のバランスが非常に大事だ」とも述べた。

 麻生氏も、たまにはいいことを言う。問われるのは、まさにそのバランス感覚だ。

Let's block ads! (Why?)

Read Again http://www.sankeibiz.jp/business/news/180212/bse1802120500002-n1.htm

0 件のコメント:

コメントを投稿