「現時点で決まったところはなく、今のところ考えていることはない。一般的に選択肢としてはいろんなことがある」
東芝の綱川智社長は10日の記者会見で東芝メモリにIPOの選択肢があるかと問われ、奥歯に物が挟まったような言い回しをした。
「現時点」や「今のところ」はないものの、可能性が全くないわけではなく、先行きの展開次第ではあり得るとも受け取れる回答だ。現に東芝メモリの売却手続きは壁にぶつかっており、売却がうまくいかなかった場合に備えたシナリオを東芝が検討していてもおかしくはない。
東芝は上場維持に向け、「決算」と「債務超過」の2つの課題があるが、10日に監査法人から平成29年3月期決算について、おおむね妥当とされる「限定付き適正意見」をもらい、決算をめぐる課題には一定のめどが付いた。だが、東芝メモリ売却による来年3月末までの債務超過解消というもう一つの課題に関しては展望が開けていない。
ネックとなっているのが、半導体生産で協業する米ウエスタンデジタル(WD)との係争だ。WDは東芝メモリの売却を契約違反として国際仲裁裁判所や米裁判所に差し止めを求めて提訴。米裁判所は差し止めを認めなかったが、仲裁裁の審理は今秋に始まる見通しだ。裁定が出るのは1〜2年かかるが、それまで予備的に売却を差し止める可能性もある。仮に予備的な差し止めがなく売却手続きが済んだとしても、その後の裁定でWDの主張が認められれば、売却自体が白紙に戻りかねない。
このため、日米韓連合は中核となる革新機構が「WDとの和解なくして資金は出せない」と一貫して主張。優先交渉先となった6月21日から2カ月弱経っても契約締結に至っていない。仲裁裁で差し止められた場合のリスク負担をめぐっても意見が対立しているもようだ。
「独占禁止法を考えると決して容易ではないが、最善を尽くす」と綱川社長は苦しい胸の内を明かす。売却に伴う各国の独禁法審査は一般的に半年以上かかるとされ、来年3月まの売却完了から逆算すると、売却契約のデッドラインは9月に迫る。
それまでに、東芝は売却契約を結ぶことができるのか。突き詰めると、東芝はWDに提訴を取り下げてもらわないと売却を完了させるのは難しい。水面下では日米韓連合にWDを迎え入れる構想なども模索しているが、東芝とWDの関係は悪化しているだけに、時間が限られる中で実現するかは未知数だ。
日米韓連合との交渉が難航する苦しさからか、綱川社長は10日、並行してWDや鴻海(ホンハイ)精密工業の陣営とも交渉を続けていると説明した。だが、WDを選べば、独禁法審査に相当な時間がかかり、来年3月の売却は間に合わなくなる。鴻海にしても中国とのつながりの深さから、技術流出を懸念する日本政府が外為法での審査対象になるとの認識を示す。いずれへの売却も日米韓連合以上に難しく、来年3月までの売却完了は見通せない。
こうした中、東芝メモリのIPOの構想がにわかに浮上している。東芝関係者も「東芝メモリが売却できないシナリオは考えているというレベルではないが、ケーススタディーはいろいろやっている」としており、「IPOも準備だけはしようということになっている」と語る。
確かに東芝メモリでIPOということになれば、得た資金で財務体質を改善することはできる。だが、致命的なのは、IPOの準備には最低1年以上の期間が必要になるという点だ。東芝関係者は「来年3月には間に合わない」と語っており、もしIPOに踏み切る場合は、やはり東芝本体は上場廃止になってしまう可能性が高い。上場廃止を回避する道として、外部からの資本受け入れもあり得るが、引き受け手が現れるか不透明感が強い。
IPOは中長期的な視点での財務体質改善や投資資金確保にはつながるが、上場維持というこれまで進めてきた戦略の前提を崩す一手だ。財務改善に時間がかかるのであれば、資金繰りを支える銀行団が首を縦に振るかどうかも分からない。
いずれにせよ、東芝メモリの売却手続きは時間との戦いで、上場廃止の回避は難度が高まっている。東芝がはまり込んだ隘路(あいろ)から抜け出すには、かなりの“ウルトラC”手段が必要になりそうだ。(経済本部 万福博之)
新規株式公開(IPO)と上場廃止 IPOは証券取引所に株式を上場することで、企業にとっては資金調達や知名度向上などのメリットがある。一方で、業績を上げて株主に配当したり、企業活動を適切に情報公開する責任を負う。取引所の審査を受けた後、財務状況や同業種の株価などを基に投資家に売り出す公募価格を決定。上場前に一部の投資家に公募の形で株を売り出す。上場後は一般投資家が市場で株式を売買することが可能となる。上場廃止は証券取引所に上場している会社の株式が売買できなくなること。経営破綻や有価証券報告書の虚偽記載、債務超過などで廃止となる。
産業革新機構と「日米韓連合」 産業革新機構は日本の産業競争力を高めるため、平成21年に政府を中心に大手企業も出資して設立した投資ファンド。新技術の事業化やベンチャー企業、大企業の技術を生かすための事業再編を支援する。液晶大手ジャパンディスプレイや、半導体大手ルネサスエレクトロニクスなどに計約9850億円を出資した。日米韓連合は東芝が今年6月21日に決めた半導体子会社「東芝メモリ」売却の優先交渉先。革新機構と日本政策投資銀行が議決権の計66.6%を握り、米ファンドのベインキャピタルが33.4%を持つ枠組み。韓国半導体大手SKハイニックスがベインに融資する形で参画する。
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