2018年11月24日土曜日

「ゴーン後継」巡り綱引き 日仏連合、成長戦略に暗雲

日産自動車がカルロス・ゴーン容疑者の会長職を解任したことで、仏ルノー・三菱自動車との3社連合の成長戦略に暗雲が漂い始めた。ゴーン元会長はルノー筆頭株主の仏政府との利害調整に加え、次世代技術の開発や新興国市場の開拓などの戦略を主導してきた。新たなリーダー役を巡り、仏政府との綱引きも始まった。船頭なき「呉越同舟」は針路を保てるか。

日産は西川広人社長兼最高経営責任者(CEO)が暫定的に会長職を兼務する方向で調整していたが、22日の臨時取締役会では結論を先送りした。12月の取締役会をメドに社外取締役3人が現在の取締役の中から会長候補を提案するが、ルノー側から選ぶ可能性は低い。

米紙ウォール・ストリート・ジャーナル電子版は22日、ルノーが日産の取締役会にゴーン元会長に代わる会長を指名する意向を伝えたが、日産が拒否したと報じた。日産は事前にルノーによる指名を認めないとする書簡を送ったという。

会長人事を巡るルノーの動きには、仏政府の意向が働いているとみられる。日仏3社連合は仏国内の雇用を維持・拡大するための原動力だけに、日産に遠心力が働くことを警戒している。

「今年、ルノーは仏に対して総額14億ユーロ(1800億円)の投資を発表した」。8日に仏北部モブージュにあるルノーの工場を視察したゴーン元会長は、主賓であるマクロン大統領に語りかけた。同日、日産・三菱自はルノーの仏国内にある2工場に小型バンを生産委託すると発表した。

ルノーは仏国内に4万人の雇用を抱える。雇用創出のため3社連合の「不可逆的な関係」を求める仏政府に対して、これまでもゴーン元会長は日産車の仏国内への生産移管などで応えてきた。

理解者とも言えるゴーン元会長を欠き、仏政府とルノーは3社連合の枠組み維持に本腰を入れる。仏政府の意向を受けた人物を日産会長に送り込むことを検討する可能性がある。ゴーン元会長と側近のグレッグ・ケリー容疑者の取締役解任が決議される見通しの臨時株主総会が焦点となる。

またオランダに本社を置くアライアンス統括会社「ルノー・日産B・V」のトップはルノーのCEOが務めるという内規があるとされる。20日にルノーの暫定トップに就いたティエリー・ボロレ最高執行責任者(COO)がCEOに就けば、連合の実権を握られる可能性もある。

ゴーン元会長とケリー役員をのぞく日産の取締役7人のうち現在、日本人が5人を占め、ルノー出身者は2人。日産が臨時株主総会をいつ開くのかを含め、水面下の綱引きが続きそうだ。

一方、筆頭株主のルノーに多額の配当を払い続けてきた日産の遠心力は強まるとみられる。日産側はこれまでも水面下で「ルノーとの資本関係は見直しが必要」(同社幹部)と迫り続けてきた。

日産側の「自立」意識の高まりで3社連合が形骸化すれば、最大の果実である開発・生産領域のシナジー創出に影響が及ぶ。ゴーン元会長の指導力と総販売1千万台の企業連合としての「存在感」を前提とするからだ。

ゴーン元会長は「電気自動車(EV)や自動運転など次世代技術の推進には、シェアの大きさが有利に働く」とし、22年までに年1400万台という強気の販売計画を打ち出した。3社連合の研究開発体制も一体化し、EV車両の骨格(プラットホーム)の7割を共通化する計画だ。

次世代車のCASE(つながる車、自動運転、シェアリング、電動化)対応も先導役はゴーン元会長だった。つながる車で米グーグル、配車サービスでは中国・滴滴出行との提携を実現した。3社連合の結束が緩めば、提携策の推進でも致命的な遅れを生みかねない。

日産はルノーからの自立を目指しつつ、提携の果実を維持する難しいかじ取りを迫られる。

20年代以降を見据えた新興国市場の開拓戦略にも「ゴーン不在」が影を落としそうだ。元会長の類いまれな外交力が奏功した案件が多いからだ。

12年にはロシアのプーチン大統領(当時首相)からゴーン元会長が直接要請を受け、ルノー・日産で同国のアフトワズを傘下に収めると発表した。また中国の東風汽車集団とのルノー・日産双方の提携を決めたほか、10年にはルノー・日産連合でインド工場の開設にこぎ着けた。

提携先や地元当局にはゴーン元会長が定期的に訪れて信頼を得た。元会長が3社の経営に影響を持つことで、投資を地域ごとに分散させ、調達先の共有や生産委託によるリスク軽減も進んだ。

新興国市場を優先したことで国内販売が低迷するなど改革のひずみも目立つが、ゴーン元会長が利害が複雑に絡む3社を成長路線に導いてきたのも事実だ。強力なリーダーシップをとれる「ゴーンの後継者」を見いだせるかが、3社の成長を大きく左右する。(山本夏樹)

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