2018年11月3日土曜日

企業主導型保育所2園、全保育士7人が一斉退職

休園した「こどもの杜上北沢駅前保育園」=東京都世田谷区で2018年11月2日午前10時26分、小野まなみ撮影

 東京都世田谷区にある保育所2園で7人の保育士全員が10月末に一斉に退職し、園児が転園を余儀なくされたり保護者が出勤できなくなったりしている。1園は休園し、もう1園は受け入れを続けるが、「保育の質」に不安を持つ声が出ている。

 一斉退職したのは、企業主導型保育所「こどもの杜(もり)」の上北沢駅前保育園(園児10人)の保育士5人と、下高井戸駅前保育園(同18人)の保育士2人。上北沢園は今月から休園。下高井戸園は今月から新たに保育士を確保し、上北沢園の2児を含む計20人を受け入れている。上北沢園の残りの8児の保護者は近隣園に問い合わせたり、世田谷区に相談したりしているが、待機児童が多く、受け入れ先は決まっていないとみられる。

 2園は絵本の読み聞かせができるというロボットを導入するなど特色ある保育をしていた。運営する「Brighton Nursery & After School」(杉並区)の経営者の男性(47)によると、10月上旬に上北沢園の保育士全員から退職希望があり、保育士の派遣や他業者との提携を模索したが見通しが立たなかった。下高井戸園では31日、保育士から退職の意向を告げられたという。

 「保育士には給与の未払いがあったようで、これが一斉退職の要因の一つになった」と証言する関係者もいるが、男性は「給与は払っており、遅れたこともない。子どもの情報の引き継ぎもなく、愛情はなかったのかと悲しくなる」と反論する。

 この混乱でしわ寄せを受けているのが子どもたちだ。下高井戸園に通う子の母親は「安心できないので仕事を休んでいる」と憤る。いつもの保育士が見当たらないことで泣き出す子どももいたという。上北沢園から転園した子の父親は「待機児童が多い地域なので、簡単にほかの受け入れ先は見つからない。怒っても仕方がない」とため息をつく。

 厚生労働省から企業主導型保育事業の運営を委託され、助成金支給を担う公益財団法人「児童育成協会」(渋谷区)は「保育士が一斉に辞めることは通常は考えられず、利用者のことを考えると非常識」と話し、利用者に新たな受け入れ施設を案内するなどの対応に追われている。

 協会は下高井戸園の新しい保育士が有資格者かどうかを確認するため職員名簿の提出を求めているが、経営者は名簿の提供を拒み続けているという。園には栄養士はおらず、給食の献立をパソコンソフトで作成している。2日朝には経営者が自らスーパーで食材を購入していた。

 予定していたケチャップ煮用の赤身魚が店頭になく、経営者は白身魚を購入し、「煮物にする」と話した。記者が「大丈夫か」と問うと、「『大丈夫ですか』って僕も言いたい」と困惑気味に答えた。【小野まなみ、矢澤秀範】

企業主導型保育所

 主に企業が自社の従業員向けに設ける認可外の保育施設。待機児童対策として国が2016年度に創設した制度で、整備費や運営費は認可施設並みに助成される。今年3月末現在、全国に2597カ所あり、今年度末までにさらに増える見通しだ。一方で、認可施設に比べて保育士の配置などの基準が緩く、行政の目が届きにくいことから、保育の質の低下や安全管理への不安を懸念する声も根強い。

「補助金持ち逃げビジネス」の温床に

 保育制度に詳しいジャーナリスト・猪熊弘子氏の話 児童育成協会の対応にも問題があるが、国が丸投げしているのがおかしい。企業主導型は自治体が把握できず、補助金目当てで簡単に参入できるため、制度設計自体に問題がある。一番被害を受けるのは子どもと保護者だ。制度を見直し自治体が関与できる仕組みを作らなければ、企業主導型は「補助金持ち逃げビジネス」の温床になってしまう。

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