2018年1月7日日曜日

ファーウェイの大卒初任給40万円 世界標準ではまだチープ

 2017年の新卒の初任給は、厚生労働省の発表によると院卒者が23万3400円、大卒が20万6100円だ。経営コンサルタントの大前研一氏は、この金額はまだまだ世界に大きく遅れをとっているとみている。スマートフォンなどでお馴染みの中国のファーウェイ(華為技術)を例にとり、グローバルスタンダードな給料について解説する。

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 以前「70代よりも出不精な20代」の問題を取り上げたが、家に引きこもる内向きな若者の増殖は、今の日本の凋落を象徴していると言えるだろう。

 すでに述べてきたように、日本は給料がほぼ20年間にわたって下がり続け、初任給は平均20万円ほどのままである。時価総額10億ドル=約1000億円の「ユニコーン企業」も、世界217社のうち日本企業はわずかにメルカリ1社だけというお寒い状況で、国民の心理は冷え込む一方だ。これを反転させるのは非常に難しい。

 だが、光明はある。昨年秋に中国の通信機器大手ファーウェイが日本で大学卒のエンジニアを「初任給40万円」で募集して大きな話題になったことだ。日経産業新聞(2017年11月15日付)によれば、この金額についてファーウェイ・ジャパンの広報は「欧米企業にやっと肩を並べたレベルで、珍しくはない。優秀な人を採るためのグローバルスタンダードです」とコメントしたという。

 一方、ソニーやパナソニックなど日本企業の大学卒の初任給は21万円台にとどまっている。それに比べると、ファーウェイの給料は2倍近く高いわけだが、グローバルスタンダードから見れば「初任給40万円」も、まだまだチープだ。

 世界の一流のIT企業やコンサルティング会社の初任給は年収1200万〜1500万円である。人手不足が深刻化しているアメリカのシリコンバレーやサンフランシスコ・ベイエリアなどでは、中堅エンジニアは3000万〜5000万円で他社に引き抜かれる。プロジェクトマネジメントもできる人材なら1億円前後、AI(人工知能)やディープラーニング(深層学習)などの研究者には10億円以上の値札が付くことも珍しくない。

 だから優秀なエンジニアを引き抜かれないようにするために、給料がどんどん上がっていくのである。そうした“世界標準”に比べるとファーウェイの「初任給40万円」はいかにも見劣りする。

 それでも、同社が成功した最大の理由が給与レベルを世界化したことにあるのは間違いない。同社の競争相手はルーターではシスコシステムズ、通信設備ではエリクソンやノキア、スマートフォンではアップルだ。これらのグローバル企業に対抗していくために、ファーウェイは給与レベルを大きく引き上げて世界から最先端の優秀な人材を集めてきたのである。

 また、ファーウェイの人事制度は社員の5%が定期的に淘汰されるという。しかし、私が在籍していたマッキンゼーの場合は毎年社員の20%ずつに転職指導していたから、まだ甘い。ファーウェイには「45歳退職説」もあるそうだが、これもリクルートの事実上の38歳定年制から見れば、厳しいとは言えない。それでも大半の日本企業に比べたら、ファーウェイのシステムがグローバルスタンダードに近いことは確かである。

 実は、私は20年以上前に深センのファーウェイ本社を訪れたことがある。その時に瞠目したのは、全社員のうちエンジニアが約8割もいたことだ。しかも、会社の隣にアメリカ風の立派な一戸建てをたくさん作り、将来有望なエンジニアの社宅にして厚遇していた。

 それを見て私はいち早く「もし、中国から世界化する会社が登場するとしたら、第一号はファーウェイだろう」と予言した。その当時からファーウェイはグローバル企業になる基礎条件を備えていたのである。

※週刊ポスト2018年1月12・19日号

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